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「ポトスライムの舟」津村記久子 講談社

ポトスライムの舟

ポトスライムの舟

主人公は、契約社員の年間手取りとほとんど変わらない163万円を貯めて、世界一周旅行に行こうとする。登場人物の心の細やかな動きがさりげなく描かれる。女性ばかり登場するのだけど、キャラクターも上手に描き分けられていて、うまいなぁと思ってしまう。
しかし163万円なんて、そうそう貯まらないよなぁ。実家暮らしで家賃と光熱費がかからないというのが大きいか。手帳に支出を記して、いちいち悔いる様など、なんだかとても身につまされてしまう。つつましい日々の中にこそ、リアルがある。奈良県が舞台で、奈良公園やら春日大社やらが出てくるのも、主人公たちの生活を身近に感じさせてくれた。興福寺の一言観音ってのは、知らなかった。
併録の「十二月の窓辺」は、上司のモラルハラスメントに苦しめられる女性の話。登場人物の名前は違うが、表題作の前日譚のよう。主人公が会社でもがき苦しむさまが、自分にも跳ね返ってきて痛すぎる。他人事ではない。読んでいてつらくなってしまう。
どちらも三人称なのにつき離した感じがない。地の文の丹念さや活き活きとした会話などに、才能を感じる。他の作品も読んでみようと思った。