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「市民ヴィンス」ジェス・ウォルター ハヤカワ・ミステリ文庫

市民ヴィンス (ハヤカワ・ミステリ文庫)

市民ヴィンス (ハヤカワ・ミステリ文庫)

久々に骨太な本を読んだ。
証人保護プログラム(実際にある制度なんだから、アメリカは深い)で、新しい身分を与えられた主人公の再生をめぐる物語という感じか。いろんな人物が入り乱れてすごい濃密な展開なんだけど、引き締まっていながらリズミカルな文章で、どんどん読める。後半はもう一気でした。
いい奴も悪い奴も、みんな一筋縄ではいかない魅力に溢れている。なかでも個人的にお気に入りは、若い刑事デュプリーかな。真面目なんだけど、どこか切れたところがあってなんとも面白い。
主人公ヴィンスたちのエピソードと並行して、80年の大統領選の風景が描かれていて、これが、主人公が一人の人間であることを取り戻す過程と見事にリンクおり、実にいい。カーターもレーガンも、実際こんなこと思っていたんじゃないかと思ってしまうくらい、リアル。
また、しびれるセリフが随所に出てくるのもよかった。今の自分に一番響いたのが、394ページ。
「そりゃ、勝ちたいのはやまやまだ。勝ちたくないやつがどこにいる。だけど、いいかい。おれみたいな男が負けないってこと以上に何を望めるっていうんだ」
登場人物リストにも登場しないおじさんの、一言です。こんなのがばしばし出てくるんだから、うーん、すごい。